それでも、発達障がいがある子どもを育てているときには、褒めても叱ってもなかなか先に進めなくて、困ってしまうということがあります。ここでは、そんなときに考えると役に立つ工夫の方法をいくつか紹介したいと思います。

 

「細分化」…スモールステップの工夫

 

困りごとを抱えているときって、目指すべき目標が、とても遠くにあるように感じられてしまうことがあります。でも、明日からとつぜん、今日とは違う「別人」のように変身できるような、魔法があるわけではないですよね。だけど、少しずつ、一歩一歩進んでいけば、どんなに遠い道のりでも、最後は目的地にたどり着くことができるはずです。

 

特に、難しい問題を解決をしようとしているときほど、少しずつ進めることが大切です。なぜなら、一度にたくさんのことを解決しようとしてしまうと、混乱が大きくなって「ストレスシステム」が過剰反応してしまうからです。そして、「その場しのぎ」の解決だけを目指しためちゃくちゃな行動をとってしまい、かえって事態がこじれてしまうということがあるのです。

 

これは、シュレッダーに紙を入れて裁断するときの様子に喩えて理解することができます。一度にたくさんの紙を入れすぎると、シュレッダーは混乱して動作を停止させてしまうことがあります。しかし、少しずつに分けて入れていけば、最後には全ての紙を裁断することができます。そして、一度の何枚の紙を挿入できるかというのは、シュレッダーの性能によって違うので、私たちは様子を見ながら、挿入する枚数を調節しますよね。

 

「構造化」…見通しを持たせるための工夫

 

目的地がどんなに遠く離れたところにあったとしても、どんな道順をたどって到達すればよいの見通しがあるということは、とても大切です。

 

そうすれば、たとえ一歩ずつしか前進できなかったとしても、その歩みを止めずに進み続けることができます。でも、もしも、自分がどこに向かって歩いているのかも分からなければ、不安で仕方がなくなってしまいます。

 

見通しを失うことって、不安の原因になることです。なぜなら、目の前がはっきり見えなければ、そこが安全なのか、それとも何かの危険が潜んでいるのかがわからないからです。だから、人間やその他の動物は、目の前の安全を確認できないときには、本能的にストレスシステムのスイッチが入って、不安や恐怖を感じてしまうようにできているのです。

 

発達障がいのある人たちは、ときどき、社会生活のなかで見通しを失って困ってしまいます。

 

自閉スペクトラムがあると、こころの「アンテナ」がうまく働きません。そして、相手の表情や様子から相手の感情を読み取ることが苦手です。だから、その相手とどの程度の「こころの距離」を保てばよいのかを、見通すことができません。また、言葉の裏にこめられた意味を取り違えてしまうこともあります。そして、どのように振る舞って良いのかが分からず、右往左往してしまうのです。

 

ADHDのあるひとたちは、興味の対象があれこれ移り変わってしまいます。また、大切な用事や約束やをうっかり忘れてしまいます。そのため、だんだんほかのと人たちと歩調をあわせることが難しくなって、社会生活の見通しを失ってしまうことがあります。

 

でも、その人に発達障がいがあることがわかっていれば、その人にとって伝わりやすい方法で伝えるための工夫ができます。そうすれば、見通しを失うことがなく、一歩ずつ確実に前進することができるのです。

 

支援する側が、こころの余裕を失わないとこと

 

じつは、これが一番大切なかもしれません。

 

乗り越えるのが難しい問題に向き合っているときって、本人も、支援する側も、こころが乱れてしまうことがあります。だって、前進しよう思っていのに、なかなか思い通りには前進できないから。それで、イライラしてしまったり、落ち込んでしまったりするのです。 

 

ところで、「イライラ」の感情って伝染するんです。

 

特に、その相手が自分にとって大切な人であればあるほど、感情は伝染しやすいという性質があります。たとえば、自分の子どもがイライラしていたら、親にもその感情が伝染して、イライラしてしまうことがあります。

 

もし子どもが、困難を乗り越えて前進しようとしているときに、壁にぶつかってしまったら、こころが乱れてイライラしてしまうかもしれません。そんなとき、育てている大人の方も、子どものイライラから影響をけて、同じようにイライラしてしまうことって、あるんじゃないでしょうか?

 

そんなとき大切なのは、大人の方は伝染してきた「イライラ」を受け取りつつも、自分でそれを鎮めて、落ち着きをとりもどすということです。つまり、「イライラ」を鎮める方法を、大人がモデルとなって、身をもって子どもに示すのです!

 

でも、じっさいはどうでしょうか? 大人だっていつでもそんなにこころが強いわけではありません。特に、発達障がいのある子どもを育てていると、毎日のようにそんなことが起きていることがあります。たまにだったら切りかえて受け止めることができても、日常の生活で、何度も何度もそんなことが起きてしまったら、大人だってそのうち爆発してまうこともあるのです。

 

そうならないためには、どうすればよいのでしょうか? 

 

そのためには、子どもの支援をするだけでは十分ではありません。親とか、育ていている大人の方も、こころの余裕を失わないために、支援を受ける必要があるのです。

 

でもいったい、大人はどんな支援を受ければよいのでしょうか?

 

べつに難しいことは必要ありません。ただ、子育ての困りごとについて、ちゃんと理解してくれて、話し合うことができるような仲間が必要なだけです。

 

人類って、太古の昔では、今のような核家族ではなくて、たくさんの家族が一緒になって生活していたらしいのです。そして、お母さんが困ってしまっても、他の大人がフォローしたりしながら、協力して子育てをしていたのです。

 

でも、都市化がすすんだ現代の社会では、ときどき、家族がつながりを失って孤立してしまうことがあります。

 

ルカ子ども発達支援ルームでは、スタッフが子育ての悩みを、お母さんやご家族と一緒に悩みながら、支援に取り組んでいます。子育てに行き詰まったときの焦りやいらだちも、乗り越えたときの喜びも、お母さんやご家族と一緒に分かち合いながら、少しずつ前進していきます。そして、子どもが輝きながら成長する姿を、一緒に見守っていきたいと願っています。

 

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